[書評]極夜行
角幡唯介、『極夜行』読了。
『空白の5マイル』以来、ずっと好きな作家の新作をやっと読めた。
彼は、「探検・冒険行為の核は脱システムにある。」という。
地理的空白部がほとんどない現代で、彼がそれに代わる新しい探検のテーマとして考えたのが、極夜世界の探検だった。現代人は、昼は太陽にあたり、夜は人工光に照らされ、常時あかりの絶えないシステムのなかで暮らしているが、そのシステムの外側へ出ようと筆者は考えたのだ。末恐ろしいアイデア。そして彼は数年をかけ、実行する。
角幡さんを推したい点は、彼が非スポンサー主義であるところだ。どこかの著書に書かれていたが、スポンサーをつけてしまうと、最終的な意思決定時に自分の意思だけで行動できなくなるから、らしい。
なので、この探検の旅費、機材などもほとんど自費なのだ。私は、貧乏学生なのだが、角幡さんの本は単行本で買うようにしている。少しでも活動を応援したいなあという意思表示だ。みなさんもぜひ新品で買いましょう。読めばわかります、後悔はしないです。むしろもっとお金を払いたくなる。この探検行為はそれだけの価値があると思う。
ただ、注意が必要なのは、あまりに描写がうまいので快適な家でゴロゴロしていても自分まで極夜病のようになってしまうことだ。文体は彼の中ではだいぶ軽く、下ネタも多い。思わず声をだしてわらってしまうこともあった。基本的には何もない極夜の世界を歩く物語なので、緊張状態が続く。その中のユーモアで緊張と弛緩のバランスが心地よい。その塩梅が絶妙である。
そして最後のシーン。その感動は筆者の感動を追体験できたからこそ味わえるものだった。彼の人生を賭けた旅、それを一緒に追いかけることができた。実際にその場にいたかのように感じさせる角幡さんの表現能力の高さを改めて感じた。
とりあえず、2018年のベストはいまのところこの一冊。角幡唯介の最高傑作である。